夏場、バナナを冷凍させてから食べると、ひんやりとしておいしい。そう、夏場なら・・・。時は真冬の2月。私たち研究グループは韓国岳にいた。持ち物はビニール袋、ビニール手袋、野帳。ほかにはカッターやマジックなど。そして、韓国岳は一体何℃になっているのか、怖いもの見たさもあって、温度計をもって登山開始。山ガールとか、言ってられない。完全防寒である。
ずっと同じペースで歩き続けるのであれば、体がぬくもるのだが、目的は樹氷ハンティング。ところどころで立ち止まるので、寒くならないよう、服の重ね方も注意が必要になる。山の服装は命にかかわるので、山用品専門店での投資額はかなりのものになっているような気がする。
寒波が来た。ネットのライブカメラを見ると樹氷がついている。この寒波は明日も続くだろうから、いまから出かけよう。
樹氷は過冷却水滴が、木々や 岩などの構造物にぶつかって着氷する 。九州の山岳の樹氷の特徴は、寒気の到来とともにつき、寒気が去り、気温が上がることで樹氷が落ちることである。このときも、朝登り始めは樹氷がびっしりとついていたのだが、ハンティングを終えて下山すると、5合目付近からはすでに樹氷が地面に落ちていた。
せっかく樹氷を見に行って樹氷がついていなければ、ふつうは、あ~残念となるところだが、この特徴は越境大気汚染の状況を検討するには、好都合である。そう、樹氷が付いたタイミングを特定できるからである。そして採取した樹氷のなかの成分を分析することで、どのような空気が流れてきたときについた樹氷なのか、という解析ができるためなのだ。
3合目から山頂まで、それぞれの合ごとに立ち止まり、登山しながら樹氷と雪をビニール袋に採取する。
外気が氷点下になるほどなので、採取したサンプルは、保冷せずとも溶ける心配はまずない。それでも、採取した袋の口をシッカリ結ぶことと、どこのサンプルなのかを書くことは必須なのだが、これがなかなかの難作業。袋の口をシッカリ結ぶにはどうしても手袋を取らねばならぬ。強風吹きすさぶ中、手がかじかみ感覚がなくなっていく。
調査から帰って、後日、山用品屋さんに行くと、指の先は切れていて、手袋をはずさずとも指先が使え、指先を使わないときはミトン状の覆いのある手袋を見つけたのだが、10,000円也。欲しいが高い。
山頂から8合までは強風で顔が痛いほどで、ひたすら耐えるのみ。気温は-15℃にもなっていた。さらに下ると、気温もあがって風も山頂ほどではなくなる。5合目付近までくだると、ほっとして急におなかがグウ。おもむろにザックからバナナをとりだした。見てびっくり、なんとバナナが一部シャーベットになっているではないか。
いまは真冬。冬の太陽のぬくもりを感じ、樹氷がすっかり落ちてしまった木々をみながらシャリシャリとバナナを食べた。幸い、山を下ることで体がぬくもっていて、さほどシャーベットで体が冷えることはなかった。それでも、下山後に入る温泉のぬくもりを想像しながら早歩きで山をくだったのだった。(参考文献:酸性雨研究と環境試料分析-環境試料の採取
・前処理・分析の実際- (愛智出版 2000) 、日本の水環境7 九州・沖縄編 (技法堂出版 2000)、高山の大気環境と渓流水-屋久島と高山・離島- (技法堂出版 2016)、日本化学会誌 6 788-791 1993,地球科学 27 65-72 1993 ほか ) (KN)
韓国岳山頂付近にて。強風にもマケズ、樹氷を取る。この前の週に登ったときには、左に見える大波の池は完全には凍っていなかったのに、今回は完全に凍っていた。樹氷の成長具合は、風の強さにも影響される。強すぎると飛ばされてしまう。この日、樹氷の成長は小さく、樹氷を取るのに難儀した。
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