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  • 執筆者の写真永淵研究室の研究員

パルの小規模金採掘サイトを心配する

 パル市の山あいにあるポボヤ (Poboya) 地区では、いくつもの小規模金精錬場がある。地震が起こる以前、私達は、この金精錬に係る大気中の水銀濃度をメインとした調査していた。


 日本では水銀といえば、魚に含まれる、と考えられがちだ。しかし、古くは奈良の大仏で金メッキを施す際に、水銀と金のアマルガムを大仏に塗り、その後、内部からたき火で熱して水銀を大気へと揮散させるという手法がとられ、その結果、無機水銀による中毒者が多数出たと言われる。このように、唯一、常温で液体の金属である水銀は、容易に大気中に放出される。ヒトが、この高濃度の水銀を吸入すると生命に悪影響を及ぼす可能性が大である。


 大気中の水銀濃度の調査は、金精錬場のあるポボヤ地区と、それに近接するパル市の市街地で行った。


 ポボヤ地区では、水銀利用をうかがわせる高濃度の大気中水銀が観測された。それだけではない。ポボヤ地区で大気中に放出された水銀は、パル市内にも影響をおよぼし、その濃度は北半球のバックグラウンド (1.5 ng/m3) のレベルをはるかに超えていた。ヒトへの健康影響が心配される (リスクが懸念) される濃度だった。


      図 水銀用パッシブサンプラーで測定した大気中水銀濃度 (24時間平均値)



 ポボヤはパルの市街地から7 km 程の山あいにあり、採鉱者数は、35,000人、ボールミルは20,000台ともいわれている。精錬の作業は昼夜を問わず、土日を問わず行われ、朝から晩まで、ガッチャンガッチャンと一定のリズムで鉱石を砕く機械が動き、ガラガラガラガラと砕かれた鉱石と水と水銀を混ぜるためのボールミルが勢いよく廻る。ボールミルでの工程で出たスラリー状の残渣は、露天掘の穴に無造作に貯められている。


 精錬過程を経たアマルガム (水銀団子) は、ポボヤ地区に軒を連ねるゴールドショップに持ち込まれ、その場でバーナーを用いて熱し、水銀を揮散させて粗製の金を得る。そして比重、重さを測り、その場で換金されている。


 水銀は常にポボヤ地区の作業場のあらゆる場所から大気へと放出されている。共同研究者の所属するタドラコ大学 (中心市街地から少し北側に位置する) に気象計と水銀モニターを設置して、その変動をみた。


 風向は、夜間は陸地からパル湾、昼間はパル湾から陸地へという、いわゆる海風山風の特徴を示した。タドラコ大学での水銀モニターの濃度は夜間に高濃度に、昼間に低濃度になるという変動を示し、ポボヤ地区から大気中へ排出された水銀は海風山風に乗って、パル市内をいったりきたりしていると考えられた。このように、ポボヤ地区の大気中水銀濃度はパルの市街地にも影響するほどでの高濃度であることが分かってきた。


さらに調査を進めると、ポボヤ 地区から流出する河川には高濃度の水銀を含んでおり、市街地を通り、パル湾へと流出している。



常夏の国で、衛生状態が気になるのみならず、今回の地震で、無造作に管理されたポボヤ地区の水銀が、どうなったのか、気が気でないのである。


写真:

ガラガラと廻るボールミル。ポボヤ地区にて。



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