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執筆者の写真永淵研究室の研究員

母校の教壇に立つ

更新日:2018年3月30日

 遠くの窓から視線を感じた。ふと見上げると高校校舎から、顔をこちらに向けている男子生徒がいる。明らかにこちらを見ているので、こちらから大きく手を振ると、ニヤっとした。休み時間に廊下で会うと、もっと積極的にボールを取りに行けと文句をつけた。そう、私は校庭で体育の授業中だった。彼は私のクラスがハンドボールの練習試合をやっているのを、授業をそっちのけで、しかも、授業をしている先生の目を盗んで、見ていたのである。確かに、彼の指摘は正しかった。私は運動が苦手で、その日もボールを取り損ねてチームメイトに残念がられたくないので、ボールが多く回ってこないポジションを確保するのに必死だったのだから。


 阪急宝塚線にある、私の母校に数年前から講師として授業によばれ、年に1、2度授業をするのが、ここ最近の私の楽しみの一つである。私の高校では大学の先生の授業を体験させる日を企画し、関西一円や全国の大学の先生を20~30名よぶ。さまざまな分野の授業があり、生徒は最大2つの授業を選んで受講できる。一方、併設している中学校では、卒業生の私が環境分野の研究をしていることを知り、中学校1年生向けに環境のミニ授業の講師として呼んでもらっている。


 今年もありがたいことに声をかけてもらい、教壇に立った。私立の学校なので、私が高校生のときに在籍していた先生方が今でも現役の先生をしていることも多い。そのため当時と異なって、私が教壇に、先生が生徒の側に座ってかつての生徒が教壇で授業をしているのを眺めているということもしばしばなのである。


 中学校は一学年が4クラスあり、数年前までは学年全員を講堂にあつめて、講演会のような形で4人の講師が順に話すスタイルだった。が、途中で寝てしまう生徒がいるのを防ぐためか、ここ2年は各クラスを4人の講師が順に回るという方式に変わった。つまり、同じ授業を4回繰り返すのだ。先生もいろいろ考えるものである。ほんの数十分でもクラスによって雰囲気が違っておもしろい。おとなしいクラスもあれば、問いかけに自由に意見を言ってくれるクラスもある。


 卒業して十数年、学校の校舎は一部新しくなり、今では床の油引きもないし、冬場にだるまストーブを置くこともないようだ。学校は進学に力を入れ、中・高受験者も増え、大学進学実績も伸ばしている。以前を知る先生からは、受験受験で、学校の面白みが減ったとぼやく声も聞こえてくる。しかし、冒頭のような雰囲気は今でもしっかり息づいているようである。


 先日、ここの高校に進学するかもしれないと、願書を取りに行った知り合いがいる。その日は進路相談会が同時に開催されており、私のことを知っている先生が対応してくれたらしい。卒業生である私の話題はあがるし、受験の話から世間話までしていたそうである。そして、別の高校に行っても悩むようなことがあったら、どこの学校の生徒だということに関係なく、話をしに来ていいよ、と言ってくれる、私の母校の懐の深さに改めて感服したのであった。(KN)



かつて体育の授業をうけた校庭。いつの間にか芝生になっていた。

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